春乃 きいな
宗像市観光大使
高校生や大学生に向けて進路選択や将来へのヒントを届ける場として開催された「キャリアフェス in むなかた」。このイベントは、正解のない時代において、自分なりの選択をどう肯定し、どう歩み続けていくかを、登壇者それぞれの実体験を通して考える場として企画された。夢を語ることに慎重になりがちな若い世代に対し、「迷っていい」「揺れていい」というメッセージを、リアルな人生の声として届けること。それがこのフェス全体に通底するテーマだった。
今回登壇したのは、スターダストプロモーションのアイドルグループ「ばってん少女隊」の春乃きいなさん。現役アイドルとして飛び回る中、最難関国公立大の1つ九州大学に合格、卒業している。どんな人生を送ってきたのか、リアルな紆余曲折を学生たちに語る。
「今日は、みなさんの背中を少しでも押せる話ができたらと思っています。」
立ち見が出るほど学生が集まったブースに登壇したのは、ばってん少女隊のメンバー・春乃きいなさん。九州発のアイドルグループとして活動を続け、今年で10周年を迎えた彼女は、現在は東京と福岡の二拠点で活動している。
長崎で生まれ育ち、高校進学を機に福岡へ。さらに今年の春、グループの新体制をきっかけに東京へと生活拠点を移した。人生の中で二度の大きな「環境の変化」を経験してきた春乃さんは、その選択の裏側にあった葛藤を率直に語る。
「九州の魅力を伝えたいグループなのに、東京に住んでいいのかなって悩みました。福岡は住みやすくて大好きだったし、正直、出たくない気持ちもありました。」
それでも一歩外に出たことで、知らなかった価値観や文化に触れ、自分のいた場所を客観的に見つめ直すことができたという。
「当たり前だと思っていた方言が通じなかったり、考え方が全然違う人に出会ったり。知らなかった世界を知ることで、自分の視野は確実に広がりました。」
環境を変えたことで得た最大の学びは、「自分は、知らないことだらけだった」と気づけたことだったと春乃さんは言う。
「自分の世界が狭いと、その外にあるものを受け入れるのが怖くなる。でも、知らなかったことがたくさんあると認められたら、違う考え方の人にも向き合えるようになりました。」
それは、違いを排除するのではなく、理解しようとする姿勢へとつながっていった。新しい環境に挑戦することは怖い。それでも、怖がりすぎると見えなくなるものがある──その実感が、会場に集まった学生たちの胸にも静かに届いていった。
春乃さんが大切にしている行動原則は、驚くほどシンプルだ。
「とりあえず、やってみる。」
アイドルになったきっかけも、実は偶然の連続だった。好きなアイドルのライブを観に行った先で、たまたま目にしたオーディションの告知。軽い気持ちで挑戦したその一歩が、10年以上続くキャリアにつながっている。
「考えすぎても、やってみないと分からないことばかり。だから挑戦のハードルを、できるだけ下げるようにしています。」
挑戦は、必ずしも完璧な動機から始まらなくていい。小さな好奇心や、ちょっとした勇気が、後から人生の軸になることもあるのだ。
順風満帆に見えるアイドル人生の裏で、春乃さんは大きな挫折も経験している。大学受験の失敗と、浪人生活。さらにコロナ禍が重なり、孤独と不安に押しつぶされそうな日々を過ごした。
「正直、この時期は人生で一番しんどかったです。」
その状況を乗り越えた原動力は、意外にも「意地」だったという。
「決めたからには、後から『あの選択でよかった』って思える自分になりたかった。ただ、それだけでした。」
緻密な計画ではなく、地道な積み重ね。派手さはないけれど、自分が選んだ道を正解にするために、やり切る。その姿勢は、多くの学生にとってリアルな励ましとなった。
「好きなことを仕事にしていても、楽しいことばかりじゃない。」
ステージの裏には、厳しいレッスンや地道な準備がある。それでも続けられるのは、好きという気持ちがあるからだ。
「大変なことでも、『まあ、しゃあないけどやってやるか』って思える。そのちょっとした気持ちが、すごく大きな力になります。」
また、春乃さんは「好き」の定義を広く捉えることも勧める。
「周りより少し苦じゃないこと。長く続けられていること。それも立派な『好き』だと思います。」
将来の理想像として春乃さんが掲げるのは、「強くて柔らかい人」。
自分の軸を持ちながら、変化にも柔軟に対応できる。竹のように、しなやかで折れない存在だ。
「意見を押し通すだけでもダメだし、流されるだけでもダメ。そのバランスを取りたいんです。」
もう一つのキーワードは、「欲張りでいること」。
「好きなことは、一つじゃなくていい。どちらかを諦めるより、両方取りに行く人生もあっていいと思う。」
講演の最後に、春乃さんはこう語りかけた。
「進路に正解はありません。だから、間違いもないと思っています。」
迷いながらでも一歩踏み出し、転んでも、また歩き続ける。その先で「この選択でよかった」と思える瞬間を、自分の手でつくっていけばいい。
その言葉は、これから選択を重ねていく若い世代にとって、確かな支えとなるメッセージだった。
九州大学 卒業式(本人提供)

春乃さんの歩みが教えてくれるのは、「どちらかを選ばなければならない」という思い込みを、静かに乗り越えていく強さです。アイドルとして活動しながら、浪人という遠回りも引き受け、学ぶことを諦めなかった。その選択は、華やかさでも努力自慢でもなく、「自分の人生を自分で引き受ける」という覚悟の積み重ねでした。
迷いながらも、立ち止まりながらも、自分なりのリズムで進んでいくこと。その姿こそが、これから人生を歩き始める高校生・大学生にとって、大切なヒントになるはずです。この記事が、「遠回りしてもいい」「両立を選んでもいい」と、自分の選択を肯定するきっかけになれば幸いです。
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