大岩Larry正志
ボイスアクター
本記事は、高校生・大学生を対象に開催されたキャリアイベント「キャリアフェス in むなかた」での講演内容をもとに構成している。
このイベントでは、華やかな成功談ではなく、その裏にある「長い準備期間」や「報われなかった時間」に光を当て、これから進路を選ぶ若者が自分なりの歩き方を考えることを大切にしている。
今回登壇したのは、プロ野球・Jリーグ・Bリーグなど数多くのチームのユニフォームやロゴを手がけてきた、日本初のスポーツデザイン専門家、大岩Larry正志さんだ。
講演の冒頭、ラリーさんはさらりと言った。
「先に言いますが、僕、日本で“スポーツデザイン”を専門にやってきた最初のデザイナーです」
プロ野球5球団、Jリーグ2チーム、Bリーグ3チーム。
ユニフォーム、ロゴ、ポスター、ビジュアルディレクションまで。
今でこそ当たり前に見える「おしゃれなユニフォーム文化」。
だが20年前、日本にはその仕事自体が存在していなかった。
ラリーさんは、子どもの頃から「描くこと」が好きだった。
クラス代表で絵を描き、賞をもらう。
将来の夢はマンガ家。
一方で、京都・平安中学高校に進学。
甲子園最多出場を誇る、野球の名門校だ。
「プレイヤーではなかったんですけど、なぜか中学2年から急に野球にハマって」
月刊ジャイアンツ、ドラゴンズ、タイガース…。
考えられる限りの野球雑誌を毎月読み、巨人戦全130試合をメモする生活を32歳まで続けた。
後に「野球知識検定5級6級100点満点合格」という、揺るがない武器になる。
進学したのは武蔵野美術大学。
建築学科に在籍しながら、グラフィックデザインは独学だった。
MacもIllustratorも、まだ一部の学生しか持っていない時代。
Tシャツや自主制作の作品が、少しずつお金に変わり始める。
「これ、いけるんじゃないかって… 完全に勘違いしましたね(笑)」
就職せず、フリーランスへ。
しかし、すぐに現実にぶつかる。
「ヤバい。このままじゃ、その他大勢のデザイナーで終わる」
仕事はある。
生活もできている。
でも、「自分にしかできないこと」が見えない。
「何をしたら、他の人と闘えるんだろう」
悔しくて眠れず、夜中に散歩する日々。
20代半ば、ラリーさんはずっと答えを探していた。
転機は、メジャーリーグ中継だった。
観客席にいるおばあちゃんも、試合がない日でも、ロゴ入りキャップやTシャツを着ている。
「スポーツが、ファッションになっている」
当時の日本にはなかった文化。
ユニフォームは“応援着”であり、普段着ではなかった。
「日本でも、スポーツが日常のファッションになったら面白いんじゃないか」
野球オタクとしての知識。
アメリカンデザインへの憧れ。
ものづくりへの執着。
すべてが、一本の線につながった。
貯金20万円。その全額を使って、個展を開く。
「こんなユニフォームがあったらかわいい」
プロ野球のユニフォームをデザインしたいという夢は100人に話して、100人に笑われた。
「そんな仕事、できるわけない」
「何のためにやってるの?」
それでも、翌年もう一度、個展を開いた。
「自己満足。一人で勝手にやってただけです。でも、後から思えば“準備”でした」
同時期、声優として参加したアドリブのセリフを素材とするアニメ『The World of GOLDEN EGGS』が社会現象になる。
DVD120万枚。「脱力系アニメ」の先駆け。世間的には成功。
でも本人は、モヤモヤしていた。
「俺がやりたいのは、プロ野球のユニフォームなんだ」
ある日、美容師から電話が入る。
「久々のお客さんが来ててさ。
西武ライオンズの職員さんなんだけど、今までと違うユニフォームを作りたいらしい。
あなた、野球のユニフォームをデザインしたいって前から話していたよね?」
次の日にその職員さんに会い、その場で、ユニフォームのデザインリニューアルの案件が決定。
20年近く準備してきた夢が、たった1日で現実になった。
その後は、連鎖的だった。
西武→ソフトバンク→楽天→ヤクルト→日本ハム。
Jリーグ → Bリーグへ。
「言われてから勉強する人もいます。でも、僕は10代から準備してた」
野球オタクであること。
誰もやっていない分野を、誰よりも長く考え続けていたこと。
それが、最大の武器になった。
最後に、ラリーさんは学生たちにこう語った。
「形になるまで、20年かかってもいいんです」

ラリーさんの言葉から伝わってきたのは、「自分の違和感や好奇心を見逃さず、行動に変えてきた」という姿でした。専門性の高い世界に身を置きながらも、迷いや葛藤と向き合い続けてきたそのプロセスは、将来に不安を感じる高校生・大学生にとって、現実的で心強いヒントになるはずです。
誰も見ていない時間に積み重ねたものが、ある日、世界と噛み合う瞬間が来る。EVOLOVEは、結果だけで語られがちなキャリアの裏側にある、試行錯誤や選択の積み重ねを大切に伝えていきます。この記事が、自身の興味や可能性を信じ、一歩踏み出すきっかけになれば幸いです。
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