Interview Vol.164
人生は、計画通りには進まない。
本記事は、高校生・大学生を対象に開催されたキャリアイベント「キャリアフェス in むなかた」の登壇内容をもとに構成している。進路や将来に正解が見えにくい時代に、第一線で活躍する大人たちが、自身の遠回りや失敗、葛藤も含めて語るこのイベントは、「完璧なキャリア」ではなく「生き方そのもの」を考える場だ。今回紹介するのは、韓国出身で日本・アメリカを渡り歩き、起業家、研究者、大学教員としてキャリアを築いてきた李根煕(イ・グニ)さんのストーリーである。
「人生って、何が起きるかわからないんですよ。」
そう穏やかに、でも確信をもって語ったのは、立命館アジア太平洋大学(APU)の李根煕(イ・グニ)さんだ。韓国出身、日本・アメリカで学び、起業家、研究者、そして大学教員として多彩なキャリアを歩んできた彼の言葉は、高校生・大学生に向けたメッセージでありながら、人生の岐路に立つすべての人に深く刺さるものだった。
「将来、大学の先生になろうと思ったことは
一度もなかった」
意外にも、李さんは最初から大学教員を目指していたわけではないという。
「正直に言うと、大学の先生になろうと思ったことは一度もなかったんです。」
韓国では、日本とは異なり、大学を卒業しなければ就職活動ができない。そんな制度の中で、彼は大学在学中に偶然チャンスを掴み、起業することになる。学生起業家として成功し、若くして大きな収入も得た。
順風満帆に見えたキャリア。しかし、その転機は意外なところから訪れる。
「結婚したいと思った相手に言われたんです。『あなたは、人に教える仕事のほうが向いている』って。」
その一言が、人生の舵を大きく切るきっかけとなった。
語学への執着が、人生を切り拓いた
李さんの原点は「語学」だ。中学生の頃から日本語を学び始め、中国語、英語、ドイツ語、スペイン語へと興味は広がっていった。
しかし、その背景には複雑な家族の歴史があった。日本に強い反感を抱く父の存在。日本語を学んでいることが知られ、叱責されることもあったという。
それでも彼は学びを止めなかった。
「好きだったんです。とにかく、語学を学ぶことが。」
この「好き」という純粋な気持ちが、後に彼を国費留学生として日本へ、さらにアメリカへと導いていく。
人生のどん底で、支えてくれた言葉
アメリカ留学は、決して華やかなものではなかった。
「正直、人生で一番つらい時期でした。」
資金は尽き、家族を養う責任がのしかかる。英語が話せると思っていた自信も、現地では簡単に打ち砕かれた。優秀な学生たちに囲まれ、自分の無力さを突きつけられる日々。
「自殺を考えたこともありました。」
そんな極限状態で、彼を救ったのは妻の言葉だった。
「あなたが生きていてくれれば、それでいい。」
この言葉が、再び前を向く力になった。
3年で博士号を取得し、APUへ
生活のため、家族のため、そして自分自身の誇りのために、李さんは必死で学び続けた。その結果、通常5年ほどかかる博士課程を、わずか3年で修了する。
そして、かつて憧れたAPUの教壇に立つことになる。
「好きなことを続けてきただけなんです。」
そう語るが、その裏には数え切れない挑戦と挫折があった。
「夢がなくても、悲観しなくていい」
講演の終盤、李さんは学生たちにこう投げかけた。
「夢がないことを、悲観しないでほしい。」
人生は計画通りには進まない。むしろ、進まないほうが普通だという。
だからこそ大切なのは、「今、好きなこと」を続けること。
「Keep doing what you like.」
それがいつ、どこで、どう役に立つかは分からない。でも、続けてきたことは、必ず自分を形作る。
学生に伝えたいこと
大切にして欲しいのは、「正解のない人生を、自分の足で歩く力」だ。
李根煕さんの人生は、その象徴のように映る。
失敗しても、遠回りしても、立ち止まりそうになっても、「好き」を手放さなかったこと。そして、人との出会いを大切にし、学び続けたこと。
「暇」という言葉が嫌いだ、と彼は言う。限られた時間を、どう使うか。
その問いに向き合い続けることこそが、人生を前に進める原動力なのだろう。
人生は予測不能だ。だからこそ、面白い。
そんなメッセージが、静かに、しかし力強く胸に残る時間だった。
企業からコラボ授業のオファーが増加
そんな李根煕さん、最近は様々な企業からのオファーが増えている。
年間3~4科目ほど学部の授業を担当する中で、その全てが企業とのコラボ授業であるという。企業が抱える課題を学生に共有し、学生からその解決策を提供してもらう形で授業を進める。
最初は地元別府の、中小企業とのコラボが多かったが、10年以上続けて成果を出したことで、いつの間にかNew Balance、AB InBev、HYBE JAPANのような世界的大企業からも声が掛かるようになった。
これも「好きなことをコツコツやってきた」成果だったと振り返る。
2022年New Balance様とのコラボで発表1位の賞品を受け取り、喜ぶ学生達
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立命館アジア太平洋大学 国際経営学部 教授消費者行動を中心にマーケティングの講義を担当。現在はSNS を活用したバイラルマーケティングと企業との価値創造に関する共創について研究。

李根煕さんの言葉から伝わってきたのは、「環境や肩書きに導かれたキャリア」ではなく、「自分自身の問いを軸に選択を重ねてきた姿」でした。迷いや葛藤を抱えながらも、挑戦を止めず、学び続けるその姿勢は、将来に不安を感じる高校生・大学生にとって大きなヒントになるはずです。
EVOLOVEは、結果だけで評価されがちな社会の中で、こうした“考え、選び、進んできたプロセス”に光を当てていきます。この記事が、あなた自身の価値観と向き合い、一歩を踏み出すきっかけになれば幸いです。遠回りに見える道も、必ずあなたの力になります。
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