空でつながろう

Interview Vol.165 正解ルートから外れた場所にしか、
見えない景色がある

本記事は、高校生・大学生を対象に開催されたキャリアイベント「キャリアフェス in むなかた」での講演内容をもとに構成している。EVOLOVEでは、いわゆる“成功者の勝ちパターン”ではなく、遠回りや失敗、迷いの最中にいる姿そのものを共有することで、若い世代が自分なりの選択を肯定できる場をつくってきた。今回登壇したのは、株式会社ピークエンタテインメント代表の甲田鍵司さん。芸能事務所・アミューズでの10年間と、独立後9年間の起業経験を通じて見えてきた「エンタメで生きることのリアル」を、極めて率直な言葉で語ってくれた。

正解ルートから外れた場所にしか、見えない景色がある ~エンタメの世界で迷い続ける起業家が、あえて語った「失敗」と「直感」~

「真似しないでください」から始まった自己紹介

講演の冒頭、彼はこう前置きした。

「今日の話、あんまり参考にならないかもしれないです。真似しないでください」

ビジネスのトップランナーが並ぶ登壇者の中で、自分はかなり“特殊な存在”だと言う。それでも、「こんな生き方をしている人間もいる」と知ってもらえればいい──そんなスタンスで、話は静かに始まった。

学歴も、安定ルートもなかった

大阪生まれ、大阪育ち。高校は中退し、いわゆる“学歴”はない。

「勉強で勝てる気は、最初からしなかった」

その代わり、幼い頃からアニメ、ゲーム、映画、音楽と、エンターテインメントに心を動かされ続けてきた。

「価値観が変わる瞬間って、だいたいエンタメだったんですよ」

“感動をつくる側に回りたい”。ただその感覚だけで、専門学校に進み、NHK関連のアルバイトを経て東京へ。テレビ番組のADとして業界に足を踏み入れる。

理不尽な現場と、時代の違和感

20年以上前のテレビ業界は、今では考えられないほど荒れていた。
殴られる、怒鳴られる、理不尽が当たり前。

「これは長くいられる世界じゃないな、って直感的に思いました」

その違和感は、やがて確信に変わる。

「テレビだけの時代じゃない」

人気芸能事務所での10年間

転機は、偶然の出会いだった。日雇いバイト先で出会った人物の紹介で、アミューズへ。
当時はまだ“今ほど有名ではなかった”芸能事務所で、彼はデジタル領域の新規事業に携わる。
YouTube、ニコニコ動画、スマートフォン、アプリ ──
「これから来る」と言われていた領域にいち早く関わり、ダンスコンテスト、写真集アプリ、ゲーム実況タレントのマネジメントなど、前例のない企画を次々と手がけた。

「何百人ものアーティストと関わりました。でも給料は安かったです」

夢とやりがいはあるが、ビジネスとしての手応えは薄かった。

失敗からの退場、そして独立

会社に残りながら新規事業に挑戦するも、大きな投資をしたプロジェクトは失敗。

「結果的に、居場所がなくなりました」

円満退社ではあったが、実質的には“敗北”だったという。
35歳で独立。起業してみて、最初に突きつけられた現実はこれだった。

「会社の看板が外れた瞬間、何もできない人間になる」

芸能事務所での実績は、外の世界ではほとんど通用しなかった。

起業して初めて知った「お金」と「価値」

仕事を取る。値段を決める。請求書を出す。

「全部、自分でやらなきゃいけない」

300万円の価値がある仕事を、30万円で請けていたこともある。

「安いかどうかの感覚、今でも正直わからないです」

それでも、人との縁に恵まれ、3〜4年目には一気に仕事が増えた。

そして今、再び迷っている

会社は9年目。スタッフも抱え、オフィスも構えた。
しかし今、事業は縮小の瀬戸際にある。

「倒産って言うほどじゃないですけど、どうしようかなって本気で迷ってます」

壇上で、ここまで正直に“現在進行形の不安”を語る登壇者は珍しい。

AI時代に、エンタメは生き残れるのか

映像は誰でも作れる時代になった。AIが作った動画が、何十万回も再生される。

「企業は、どっちにお金を払うか。答えはシンプルですよね」

だからこそ彼は言う。

「本当に自分にしかできないことを見つけないと、終わる」

真似できないものは、「バカみたいな夢」

彼がたどり着いた答えは、意外なほどシンプルだった。

  • 自分だけの、馬鹿みたいな夢
  • 誰かのためにやりたいという気持ち
  • 楽しくて仕方がないこと

「これ、AIや他人には真似できないんですよ」

論理やマーケティングではなく、“誰のためにやるか”を明確にすること。
それが一番、強いと感じている。

ノーギャラでも来た理由

彼がこのイベントに登壇したのは、ほぼノーギャラだった。
それでも来た理由がある。

「中学生の頃、ずっと聴いてたアーティストが今日『宗像フェス』に出演するんです。だから、来ました」

それは、ずっと胸にしまっていた“個人的な夢”だった。

「今日、夢が叶ったんです」

正解は、外にはない

最後に、彼はこう締めくくった。

「人のアドバイス、ほとんど当たらなかったです」

だからこそ、聞く。でも、最後に決めるのは自分。

「直感を信じていいと思います。外れても、それは自分の人生なんで」

オフィスがある東京都中野区への恩返し

中野の「好き」をエンタメで繋ぐ。世界一WAKUWAKUするまちづくり。
現在、オフィスをかまえる中野駅周辺の大規模再開発に伴い、区と民間が連携した中野駅周辺エリアプラットフォーム役員としての挑戦を初めている。
とある日のピークエンタテインメントオフィス。そこには、中野駅周辺の新しい広場を活用したイベントを企画する大学生や、地域を愛する多才なメンバーが集結していた。

正解ルートから外れた場所にしか、見えない景色がある ~エンタメの世界で迷い続ける起業家が、あえて語った「失敗」と「直感」~

明治大学の中野キャンパスの学生たちとイベント企画をする様子

その中心で議論を先導する彼が、まちづくりの本会議に参画したのは2023年のこと。
この街を拠点に活動していた縁から、中野ブロードウェイ理事長の推薦を受けて最前線へと飛び込んだ。
活動の原動力は、中野の「未来」への純粋な好奇心、そしてこの街に深く根付く「CtoC(個人間)の文化」へのリスペクトだ。

正解ルートから外れた場所にしか、見えない景色がある ~エンタメの世界で迷い続ける起業家が、あえて語った「失敗」と「直感」~

2025年、中野駅周辺エリアマネジメント協議会の様子

これまで、個人の趣味や「好き」を交換するガチャガチャイベントの実施や、子育て層の「遊び場が少ない」という声に応えるワークショップを駅前の広場で展開。
伝統を重んじながらも、エンターテインメントの力で新しい街のブランドを創出しようとしている。

正解ルートから外れた場所にしか、見えない景色がある ~エンタメの世界で迷い続ける起業家が、あえて語った「失敗」と「直感」~

イベントのPRを酒井区長や観光協会理事と行う

目指すは「世界でいちばんWAKUWAKUするまち」。
彼による、新しい街づくりの物語はまだ始まったばかりだ。


  • 甲田 錠司

    甲田 錠司

    株式会社ピークエンタテインメント
    代表取締役
    元アミューズ。Perfume /BABYMETAL 他多数有名タレントの企画、立ち上げ実績。起業後はTV番組やYouTube番組制作、イベントプロデュースなど。

EVOLOVEが届けたいのは、「うまくいっている人の話」だけではない。

迷い、失敗し、今も答えを探し続けている大人の姿そのものだ。

正解ルートから外れた場所にしか、見えない景色がある。

この講演は、そのことを強く、静かに教えてくれた。